▷新聞の音読
文字情報を声に出して読むことで大脳の「前頭前野」という部分を刺激し、考える力、コミュニケーション力、記憶力、創造力、自立する力、感情を抑制する力が活性化。
文章は毎日違うものがよく、一日10分。または2分~5分でも毎日続ける音読がもっとも効果的とのこと。
毎日宅配される新聞の音読は、無理なく続けられるいちばん身近なトレーニング法。
皆さんもさっそくはじめてみてはいかがですか。
「誰でも、今からでも、頭はもっとよくなります」
テレビやパソコンなどのIT機器が、暮らしを便利にしてくれた反面、私たちは頭を使わなくなっています。新聞を読まなくても、テレビやインターネットが情報を与えてくれるし、漢字は書かなくてもパソコンが変換してくれます。しかし、頭も体と同じように、使わないと衰えていきます。普段から積極的に頭を使って、脳を鍛えることが必要なのです。
「音読」は、子供はもちろん、ほとんどすべての人に効果があることが、私たちの実験で明らかになっています。例えば健康な成人で、もっと「能力アップ」したい人や、物忘れが多い「脳の老化」が気になる人、さらに「認知症」と診断された人などです。
実際に読み上げる教材としては、私はよく「新聞」をおすすめしています。新聞なら毎日読む人が多いので、あとはただ声に出して読むだけ。新聞を毎日音読して、「能力」アップを目指してください。
東北大学教授 医学博士
1959年千葉県生まれ。
東北大学医学部卒業。
同大学院医学研究科終了。
東北大学講師等を経て現職。
ブレインイメージ研究の第一人者。
新聞音読トレーニングの基本的な約束ごと
▷ 音読は脳をとてもよく働かせてくれるので、毎日10分間、集中して読めばそれで十分です。
▷ できる限り速い速度で読み続けましょう。音読スピードが速いほど脳もより活発に働いてくれます。
▷ 声は大きくても小さくてもかまいません。ただし、必ずきちんと声に出して読むことが大切です。
▷ 継続は力なり。まずは、2ヶ月間を目標に、毎日「音読」してみましょう。
▷ 音読によって前頭前野(頭の前の方にある「脳の中枢」)が鍛えられます。
実際に音読することで、どのくらい頭がよくなるのでしょうか?
ここでは、小学生から高齢者まで、さまざまな年代を対象とした実験をご紹介しましょう。
小学生は記憶力テストの成績が上がり、認知症の高齢者は病気が改善した、という驚くような結果が出ています。
小学生10人に、用意した単語を2分間でいくつ記憶できるか検査したところ、平均して8.3語覚えることができました。
次に、2分間「音読トレーニング」させたあとにテストをすると、平均して10.1語の言葉を覚えることができたのです。
音読によって、脳の記憶にかかわる前頭前野のウオーミングアップが行われて、普段以上の力が発揮できたと考えられます。
健康な大人にも実験してみました。
平均年齢48歳の人、9人に、1~2分で読める物語を毎日、声に出して読み上げてもらい、これを1ヶ月間続けました。
音読トレーニング後、「ひらがな言葉、記憶テスト」を行ったところ、トレーニング前には平均10個しか思い出せたかったのが、トレーニング後は平均14個思い出すことができるようになりました。
約1.4倍、記憶力がアップしたことになります。
ちなみに、トレーニングをしていない39歳の平均が12個なので、約10歳若い人よりも記憶力がよくなっていると考えられます。
アルツハイマー型の認知症患者16名を対象にした次のような実験結果もあります。
音読と文字を書くトレーニングを約10分、簡単な計算問題を解くトレーニングを約10分、1週間に2~5日、半年間やってもらいました。
その結果、トレーニングをしなかったグループ(対照群)は、認知機能、前頭葉機能、どちらも半年間でさらに下がりました。
一方、トレーニングした人たちは、認知機能は維持し、前頭葉機能は上がったと報告されています。認知機能とは、理解したり、判断する力のこと
前頭葉機能とは、行動を抑制したり、言葉を作り出す力のことです。
音読トレーニングするなら、朝の「新聞」が一番
声に出して読み上げさえすれば、どんな文章でも、基本的には効果があります。でも、大人が無理なく継続できて、より高い効果を狙いたいなら新聞が一番です。そのワケと、「新聞トレーニング」の効果を最大限にあげるコツをご紹介します。
新聞が格好の教材となるのは、新聞の特徴である、「新しい情報を毎日家まで届けてくれる」という点にあります。新聞をそのまま教材に使えば、新たな出費もないのでおすすめです。
理由1 継続しやすい
音読トレーニングの効果を十分に上げるためには、継続して行うことが必要です。すでに新聞を毎日読む習慣のある人なら、それを声に出して読むだけでOK。無理なく継続しやすいというメリットがあります。
理由2 毎日、新情報が読める
脳は、新しい刺激が入ってくると、喜んでよく働いてくれる、という性質があります。そのため、同じ本をくり返して音読するよりも、毎日、違った内容の文章を音読したほうがより活発に働きます。新聞なら、わざわざ買いに行かなくても、毎日新鮮な文字情報を自宅まで届けてくれるので大変便利です。
理由3 話題が増えて会話もはずむ
人と会話をしているときも、脳の広い範囲が使われて、能力アップに効果があります。新聞は会話のきっかけとなる話題を増やすには格好の材料。特に音読していると、黙読するよりも記憶に残りやすく、自然に話題も増えていきます。
「新聞トレーニング」の効果を高める4つのポイント
なぜ音読するなら午前中がいいのか、朝食を食べてからの方がいいのか、と疑問に思う人もいるかもしれません。でも、どれも科学的根拠に基づいたもの。効率よくトレーニングをして、最大の効果を上げるために、4つのポイントを押さえておきましょう。
ポイント1 好きな欄を読む
脳は楽しいことが好きなので、新聞の中でも自分が興味のある欄を音読すると、より活発に働いてくれます。また、脳は新しい刺激に対してもよく働くので、いつもはあまり読まない欄を音読するのも効果的。このときも嫌々でなく、「興味を持って読む」とより効果的です。
ポイント2 朝刊を午前中に読む
新聞は、夜、音読するよりも、午前中に音読するほうがおすすめです。頭がよく働くのは午前中だからです。これは、人間の体に刻まれている「生体リズム」と関係があります。生体リズムによると、脳が最もよく働くのは就寝時から約10時間後。11時に寝れば午前9時ごろです。そこをピークに少しずつ下がっていき、夜にはあまり働かなくなります。そのため「音読するなら午前中」というわけです。
ポイント3 朝食を食べてから音読
脳を働かせる唯一の栄養源はブドウ糖。しかし、脳はこのブドウ糖を蓄えておくことができないため、目覚めた朝の脳は腹ペコ状態です。せっかく音読するなら、ブドウ糖をしっかりとって、脳に栄養を補給してから行ったほうが効率的なのです。ブドウ糖は、炭水化物が分解してできるため、炭水化物の多い食品、ご飯やパン、果物などを朝食にとるとよいでしょう。
ポイント4 「週末ごとの脳チェック」をする
「トレーニング前の前頭葉テスト」は、現在の脳の働きを調べるテストですが、「週末ごとの脳チェック」としても利用できます。一週間でどのくらい変わったか、このテストで調べてみましょう。チェックすることで、やる気も上がり、継続しやすくなるはずです。
音読トレーニングで”能力”が上がる理由
音読は脳の広い範囲を活発に働かせますが、脳をよく働かせることが、どうして能力アップにつながるのでしょうか?そもそも音読が他の日常的な作業に比べて脳をよく働かせるのはなぜでしょうか?音読が脳に与える影響を徹底分析してみましょう。
脳の交通網が整備される
脳の中では、1000億個ともいわれる神経細胞がそれぞれ突起を伸ばして、他の神経細胞と網目のようにつながっています(下図の下)。これを神経ネットワークと呼んでいます。脳が働いているときは、このネットワーク内を情報が行き来しています。行き来する必要があるのは、下図の上のように脳内ではそれぞれの仕事を行う場所が細かく分かれていて、互いの情報を交換することで、はじめて問題を解決したり、行動するための指令を出すことができるからです。「音読」して、脳の広範囲をいつも活発に働かせていると、ネットワーク内の情報が前よりも盛んに行き来するようになります。脳はよく利用されているネットワークの網目を増やしたり、太くして、交通網を整備します。その結果、脳内の情報はより流れやすくなり、脳の働きもよくなるというわけです。
司令塔「前頭前野」も活発化
このネットワーク内の情報を統合しているのが「前頭前野」です。例えば視覚野で見たり、視覚野で聞いた情報を統合し、どう処理すればいいのか判断します。記憶する必要があれば、蓄えろと命令し、記憶したものをどのように使うか決めるのも前頭前野の仕事です。音読は、この脳の中枢、前頭前野を特に活発に働かせるため、能力アップに大きく貢献しているのです。
音読が遺伝子を刺激する?
音読がなぜこれだけ脳をよく働かせるのか、実はまだよくわかっていません。ヒトが今のような人間になったのは、ひとつにはコミュニケーションのために「言葉」を使うようになったことがあげられます。これが遺伝子に刻まれていて、音読という、言葉に触れ、言葉を発する作業に出あうと、脳が勝手に反応して、よく働き出すのではないかと考えられています。
音読トレーニングの前に
音読は脳の広い範囲を活発に働かせますが、脳をよく働かせることが、どうして能力アップにつながるのでしょうか?そもそも音読が他の日常的な作業に比べて脳をよく働かせるのはなぜでしょうか?音読が脳に与える影響を徹底分析してみましょう。
簡単な計算をできるだけ速く!
計算トレーニングもおすすめ
脳力をアップするためには、難しい計算問題を解くほうが効果的なように思えますが、実際はその逆。小学校程度の簡単な問題をスラスラ解くほうが脳の広い範囲を活発に働かせることがわかりました。
新聞の音読と一緒に、計算トレーニングもお試し下さい。
▷計算トレーニング用紙【 こちら 】